平成4(1992)年4月25日

中村福助改め四代目中村梅玉 中村児太郎改め九代目中村福助襲名披露 

四月大歌舞伎

歌舞伎座 昼の部 三階B席 わー21 夜の部 幕見席通し券

昼の部

(一、双蝶々曲輪日記 角力場)

二、保名

三、祇園祭礼信仰記 金閣寺

四、戻駕色相肩

夜の部

一、絵本太功記 尼ケ崎閑居の場

二、中村梅玉 中村福助 襲名披露口上

三、伊勢音頭恋寝刃

四、京鹿子娘道成寺 道行から鐘入りまで

 

昼の部 

二、保名  保名:芝翫 清元志寿太夫出演

♪君を失うと僕の全ては止まる~というチャゲ&飛鳥の「WALK」の

歌詞一部が頭をよぎる。まさに保名はこの歌詞にあてはまる。

衣を恋人にみたて、かつての二人の姿を物語るところや衣を見失い

探し回って見つける姿は失って全てが止まり希望も何もかもなくなって

しまった男の姿があった。自分も親し女友達が事故で亡くなった時の

ことを思い出し目頭が熱くなった。

芝翫の踊りと志寿太夫の悲しい声そして菜の花だけと夕日の照明だけの

保名の心を表す舞台背景と胸が切なくなった。

 

三、金閣寺

此下東吉:福助改め梅玉 雪姫:児太郎改め福助 

松永大膳:羽左衛門 慶寿尼:歌右衛門 佐藤正清:吉右衛門 

狩野介直信:宗十郎 鬼藤太:我當ほか

 

ストーリーはやや難解で難しいが、とても華やかな襲名披露だった。

特に雪姫が桜が散る中さまよう姿は歌舞伎ならではの美しさで圧倒した。

福助の雪姫はとても綺麗で品があり本当にこの方は男なのかと思うほど

不思議であった。出の寂しげな表情とライトアップの効果がよく美しさ

漂い見取れた(ウットリ)。八つ橋に引き続き、桜散る中の雪姫も

忘れられない舞台となり、これからますますのっていってほしい。

梅玉の東吉も役にぴったりで、姿・知的な面ざしと備わり格好良く

まさに知将であった。僅かな出ながら存在が大きい歌右衛門の慶寿尼、

憎らしさと力強さで圧倒の羽左衛門の大膳(吉右衛門にやってほしかった)、

その他ごちそうの吉右衛門我當宗十郎と大舞台だった。

 

四.戻駕

浪花の次郎作:富十郎 吾妻の与四郎:鴈治郎 禿たより:勘九郎

舞踊はわからないが、見ていてとても華やか。赤ッ面にやや怪しげな

衣装の次郎作、白塗りでブルーで統一されて清楚な衣裳である与四郎、

そしてかわいらしい禿と姿と色に思わず関心した。

禿が傾城になって、次郎作と与四郎が口説くところは色気あったり

二人の本性がわかってからの立ち回りとおおらかであった。

勘九郎の禿がかわいらしい。やはりこの方が出てくると自然に舞台は

華やかになる聞いていた富十郎鴈治郎の名コンビの踊りっぷりも

堪能した。

 

夜の部

一、太十

武智光秀:吉右衛門 武智十次郎:鴈治郎 初菊:松江 

操:芝翫 久吉:富十郎 皐月:又五郎ほか

 

 ストーリーが難しかったが、光秀の謀反から招かれる悲劇はつらく

切ない。モデルの明智光秀は三日天下とかどうしても英雄のイメージは

ないが、歌舞伎の世界だと耐える人哀しい人というイメージになる。

リアルでありながら実は嘘というように思えない印象をもった。

 吉右衛門の光秀は特に十次郎が戦いの様子を語るところでじっと耐えて

いる姿が印象的だった。親という立場ながら耐えなければならない宿命が

伝わってくる。鴈治郎の十次郎は前髪が似合い若々しい。芝翫の操は

十次郎の思いと夫光秀への恨みに近い気持ちが伝わる。松江の初菊は

十次郎を失う悲しみが切ない。又五郎の皐月は貴重な老け役。富十郎

久吉は目つきが鋭く凛々しい。適材な配役で観た収穫大きい。

 

二.梅玉福助襲名披露口上

歌右衛門梅幸富十郎勘九郎我當田之助宗十郎仁左衛門

羽左衛門又五郎東蔵~玉太郎~橋之助~松江~吉右衛門鴈治郎

芝翫梅玉福助歌右衛門(口上順)

仁左衛門の駆け付けに大感激。勘九郎と列座も華やか。

東蔵・玉太郎・橋之助の「列座できて喜ばしい」の一言だけと、

松江の男声に驚く。

 

三、伊勢音頭恋寝刃

福岡貢:梅玉 お紺:梅幸 万野:歌右衛門 

喜助:吉右衛門 お鹿:富十郎 萬次郎:鴈治郎 

お岸:田之助 千野:東蔵ほか

 

 團十郎の貢、歌右衛門のお紺、羽左衛門の喜助、芝翫の万野と

初めて見た時もすごかったが、襲名とあって、今回すごい。

何といっても歌右衛門の万野が見られるとは思わず。「お帰りィ」の

台詞や貢の顔にキセルの煙をふきかける、お鹿との間に入って戸惑う表情、

黒の着物も似合い圧巻であった。梅玉の貢は姿・器量が似合い、

台詞も柔らかく、身分的に力がないお役も伝わり、お紺からの愛想尽かしで

怒るところからもうこれまでと殺しに走ってしまう姿も印象的。梅幸のお紺は

耐えている姿や愛想尽かしが印象に残る。吉右衛門の喜助は気さくな雰囲気で、

「なんも知らないで馬鹿め」と去っていく姿がいい。富十郎のお鹿もかわいく

悪態つくところは楽しい。貢に斬られる姿の表情も印象残る。東蔵の千野も

万野が出る前の雰囲気作りがいい。田之助のお岸も貢を抑える姿に情がある。

血なまぐさい狂言を襲名に持ってくるのはいかなものかとも考えたり。

 

四.京鹿子娘道成寺 

白拍子花子:福助  所化:智太郎、橋之助、玉太郎、浩太郎ほか

 一日ずっと観ていたので、ボーと観てしまったが、雪姫同様、きれいな

白拍子がなぜ蛇の化身なのかと思ったり。烏帽子姿や引き抜きによって変わる

姿が新鮮で初々しい。

 所化の智太郎の舞の講釈より「今日で千秋楽、連日大入りで他の劇場は

てんてこまい」がめでたい。

 

一日通しで観て、金閣寺・戻駕・太十と久吉の芝居が三つもあったこと、

襲名らしい大芝居多い華やかさ。

夜の部で大向こうさんの自慢話がやや気を悪くする。

 

(所感)

 きしくも28年前の今日の姿を回顧することから記述が始まった。 

 この日の帰りのマリオンの電光表示で尾崎豊の死去のニュースを見たことが

印象に残る。ということは、尾崎豊が亡くなって28年も経つのか。

 昼の一番は確か歯医者で遅れた。就職して初めての歌舞伎見物、慎重に

なってチケットを取っていなかった。昼夜通しも初めてだったかもしれない。

 襲名らしく華やかな演目と配役であった。

 働き始めて、週末の銀座は、僕の遊び場へなっていく。2020.4.25