1992(平成4)年5月10日

1992(平成4)年5月10日

歌舞伎座 團菊祭五月大歌舞伎 夜の部

一階席 らー19

一、熊谷陣屋

二、上 猩々 間狂言 面かぶり 下 関三奴

三、歌舞伎十八番の内 助六由縁江戸桜

 

一、熊谷陣屋

熊谷直実幸四郎 相模:宗十郎 源義経:八十助

弥陀六:権十郎 藤の方:時蔵 堤軍次:染五郎ほか

 

以前、孝夫の熊谷、芝翫の相模、吉右衛門義経で観ているが、

やや難しくとっつきにくかった。今回もイヤホンつけず、

台詞や義太夫に耳を傾けていたが、やっぱり難しかった。

展開により悲劇、登場人物一人ひとりが活き活きと描かれている。

熊谷を観て大きく、荒々しさを感じた。また息子を殺してまで

尽す姿は封建性の悲劇ながら、現代のサラリーマンに通じる忠誠

のようなものも感じた。「十六年は夢だ」という台詞が成功と

悲劇を物語っている。花道でその仕草が見られてよかった。

幸四郎の熊谷は表札の見得など大きく、「十六年は夢だ」の

台詞も響く。宗十郎の相模は哀れさばかり目立つ、子を想う

母の姿は今と変わりないことを伝えてくる。八十助の義経

首を見せる情や弥陀六に声をかけるところなど若々しい。

権十郎の弥陀六は仮と本性の姿をはっきりしていて、かつては

名をはせた武士の風格がある。時蔵の藤の方は上品で、敦盛を

思う姿が伝わる。染五郎の軍次は若武者の雰囲気。

 

二、上 猩々 間狂言 面かぶり 下 関三奴

猩々:三津五郎、八十助 酒売り:田之助

黄菊の君:新之助 白菊の君:丑之助

奴:三津五郎、八十助

 

「猩々」は面をはずした能装束で猩々が現れる。三津五郎と八十助は

無表情で踊ることに驚いた。(それが能面ということか)そうで

ありながら、八十助猩々が飲もうとする酒を三津五郎猩々が奪ったり

と意外と滑稽であった。田之助の酒売りは上品。

「面かぶり」は新之助も丑之助も白塗り似合い美形である。初々しく

かわいらしいところも…次世代の団菊ぶり。缶ぽっくりみたいなものを

カタカタやるのが懸命でテンポよかった。

「関三奴」は、赤ッ面の三津五郎と白塗りの八十助で対照的で衣装といい

荒々しさと勢いがある。♪あかさたな~いきしちに~と五十音を謡う長唄

の詞があり面白い。かつて関三十郎という役者にあてはめて描かれた

舞踊大津絵からの早替わりの一部とのこと。

 

三、歌舞伎十八番の内 助六由縁江戸桜

助六團十郎 揚巻:雀右衛門 意休:左團次 白酒売:宗十郎

くわんぺら門兵衛:羽左衛門 口上:権十郎ほか

 

孝夫の助六玉三郎の揚巻で昨年観たが、さすが歌舞伎十八番となると

口上からして古き良き時代の歌舞伎を思わせ、十八番の重みや伝統芸能

神聖さを感じる。團十郎家でしか使われない河東節の存在もあり、素人の

方が奏でるという江戸庶民の文化だったことをうかがわせる。幕開けの

子供たちのシャンシャンと露払い?や「洒落た奴だ」という今に通じる台詞

なども関心した。団菊祭らしい細部まで至る配役に驚かされた。

團十郎助六は貫禄あって力強い。お家芸とあり悪態などの台詞が軽快で

テンポよく胸がすく。雀右衛門の揚巻は絵から出てきたような美しさと

品格がある。助六への一途さも伝わる。左團次の意休は前回急病で代役と

なり初めて観た。憎らしさ・ふてぶてしさがあって意休にぴったり。

羽左衛門の門兵衛は福山のかつぎや助六との掛け合いが楽しく存在感ある。

宗十郎の白酒売は柔らかくお茶目でかわいらしい、ややおふざけもあるが、

この方ならでは。父を横に懸命な芝雀の白玉、羽左衛門を相手に堂々と

している新之助の福山のかつぎ、十蔵の田舎侍はお父様の当たり役を継ぐ。

松助の通人は可笑しい(使い捨てカメラ、ポール牧、香水・トレンディ・

バブル崩壊・コードレス電話・相撲ネタ・きんさんぎんさんほかギャグ)

正之助の朝顔は台詞の語尾が楽しい、お父様羽左衛門とのコンビも驚く。

田之助の満江は母らしい重みがある。

助六が白酒売の兄に喧嘩を教えるところの「これまたなんのこってえ」

という台詞や、揚巻と意休との三つ巴の見得など見せ場が多く、改めて

何度見ても飽きない演目と感じた。

 

(所感)

夜の部は菊五郎さんが出演されず、白酒売とかで出演してほしかったと

感じた。一階の最後列で観たようで、熊谷の引っ込みや助六の出端など

観れて良かったと当時の感想にある。

羽左衛門雀右衛門、先々代三津五郎権十郎宗十郎に次ぐ團十郎

幸四郎時蔵、八十助(先代三津五郎)などまだ働き盛りだったと思う。

この時はわかっていないが、三津五郎、八十助の踊りを観ていることは

それも親子共演で観ていることは貴重だろう。

新之助海老蔵)や丑之助(菊之助)もまだ10代だった。

2020.5.5