1992(平成4)年8月22日(土)

八月納涼花形歌舞伎 通し狂言義経千本桜」 歌舞伎座

昼の部 幕見席(700円) 三幕目 道行初音旅

夜の部 1階 に列36番

四幕目 木の実 小金吾討死

五幕目 鮨屋

六幕目 川連法眼館

 

昼の部 

三幕目 道行初音旅

佐藤忠信実は源九郎狐: 八十助 静御前勘九郎

 

 いつもは逸見藤太が出てきて、忠信との立ち回りが

面白いが、通しだと、序幕で忠信に倒されるので、

二人だけの踊りとなる。しっとりした雰囲気で、女雛男雛

の型や忠信が鼓に絡むところなど見とれてしまう。

 八十助と勘九郎のベストコンビで興味深く、八十助の

忠信は颯爽して格好よく、踊りっぷりも元気がいい。

勘九郎の静は意外だったが、品があって綺麗で大きい。

 シンプルですっきりした舞台であった。

 

夜の部

四幕目 木の実 小金吾討死

五幕目 鮨屋

六幕目 川連法眼館

 

四~五幕目 木の実 小金吾討死 鮨屋

いがみの権太:勘九郎 

弥助実は平維盛藤十郎 お里:福助 小金吾:染五郎

弥左衛門:又五郎 梶原景三:左團次

若葉内侍:孝太郎 小せん:家橘 お米:万之丞 ほか

 

六幕目 川連法眼館

佐藤忠信佐藤忠信実は源九郎狐:八十助

源義経勘九郎  静御前福助

亀井六郎橋之助 駿河次郎染五郎 川連法眼:吉五郎ほか

 

 初ボーナスを使って一等席を購入。それも下手側の花道横で

役者方が自分が座る横を通っていく。思わずドキドキする。

この日は一生忘れられない歌舞伎観劇となった。

 「木の実」から「鮨屋」は、「若い田舎者?」の義太夫から

登場する勘九郎の権太が眼力鋭く、小気味よい足取りで登場する。

ほか木の実を落とす無邪気さ、小金吾をゆする緊張感、「冷え手

をしてるじゃねえか」という親の心情、維盛を見つめる仕草、

鮨樽をかかえる大見得ぶりなど要所要所の表情をよかった。

昼に静御前をやっている同じ役者とは思えなかった。

 福助のお里はあどけなくかわいらしい。舞台近くで見ると美しい。

藤十郎の維盛は、弥助から維盛に変わる仕草が品があって印象的。

左團次の梶原は自分の座っている後ろで「だまれ、おいぼれ~」

という台詞に驚かされ怖かった。又五郎・万之丞の弥左衛門夫婦は

どこかほのぼのとしてよかった。家橘の小せんは若葉内侍の身代わりで

去るときの権太を見つめる目が切なかった。孝太郎の若葉内侍は芝翫

教わったとあり、時折芝翫の仕草が見受けられた。木の実での孝太郎と

染五郎の輝く瞳が若さを感じた。

 初役揃いで納涼らしい若さと懸命さがみなぎる大芝居だった。

 

 猿之助宙乗りで有名な「川連法眼館」を八十助、勘九郎福助らで。

猿之助のがやや有名な演目となって、花形役者方が通しでやったことは

有意義だったと思う。猿之助バージョンとは異なる「川連法眼館」が

観られてよかった。

 八十助の忠信は、出が颯爽として表情がいい。「道行」の時も

そうだったが、ここでは本物の忠信であり、武将の顔であった。狐忠信が

現れ、花道を伺っての仕草は一瞬の緊迫感もあっていい。狐忠信は、

動物の哀れさが漂う。鼓の述懐や鼓を戴いてからの喜ぶ姿も良かった。

 勘九郎義経は、さっきまで権太をされていたと思えず、凛々しく

若大将ぶりである。福助の静は、お里のかわいらしさと対照的で、

どこかクールで、これが武士の妾の品格なのかと感じた。橋之助の亀井が

夜の部はこの役のみで舞台狭しと花道を駆け抜ける。

 忠信の早替わりがあるものの、宙乗りもなく派手な演出ではないが

花形役者らしい華やかな舞台と思った。

 

所感)

 とにかく花道サイドで観られたのが感激だった。七三で勘九郎が見得を

きって駆け抜けたり、八十助や又五郎左團次ら自分の横に座ったり、

通ったりするたびに乙女心のようにドキドキした。

 勘九郎の権太と八十助の忠信を取り換えた役で観てみたい。

(当時の感想より)

 

 花横で初めて観た感激ぶりが、我ながら恥ずかしいくらい伝わる。

荒法師が振り回す竹刀が目の前に来たのを覚えている。

 四の切は、猿之助バージョンしか知らなかったようで、宙乗りしない

音羽屋型があることを知る。(道行も)それにケレンを増した勘三郎

バージョンものちのち観ることになる。八月納涼歌舞伎が始まって

初めての通し狂言上演で毎夏と異なり、上演されることを知って

驚いたことを覚えている。

勘九郎・八十助・福助橋之助歌昇染五郎・孝太郎と働き盛りの

役者方が演じるとあって興味深い公演だったと覚えている。

 ここでの藤十郎紀伊国屋藤十郎である。

 昼の部は、鳥居前・渡海屋・大物浦に幕見した道行で。二代松緑

直伝の橋之助の知盛は見たかった。勘九郎と八十助が相模と入江で

助演し納涼らしい盛り上げぶりが楽しい配役でもあった。2020.6.7