平成2年5月21日

平成2年5月21日(日) 歌舞伎座 一幕見席
団菊祭五月大歌舞伎(夜の部) 
伽羅先代萩(奥殿・床下)」


政岡…梅幸
八汐…羽左衛門
仁木弾正…団十郎
千松…七之助
荒獅子男之助…松鶴改め松助 ほか


この舞台は一度見てみたいものだった。実際見てみると、
テレビのハイライトシーンでの歌右衛門の政岡のイメージが
強かったため、梅幸の政岡は意外性を感じた。
かつての「忠臣蔵」での判官とか立役をこなす役者であるので、
「女忠臣蔵」ともいわれるこの「先代萩」では迫力と貫禄があり、
スカッとするような演技であった。
歌右衛門の政岡だといかにも女形の芸という感じですまされ、
政岡の男気とかうまく表れていないようである。
ハイライトしか見ていないので実際のところよくわからないが、
梅幸の方は女々しくなく忠義を尽くす女性の姿を見た気がした。


敵役である羽左衛門の八汐も普段いい声の立役ばかりで
見ているためか、女形ということで何か滑稽だった。
しかし、落ち着いた梅幸の政岡が“動”であるなら、
彼の場合は“静”つまり影で何かをたくらんでいる悪人という
イメージで存在が不気味であった。


七之助の千松はとてもかわいらしく、後で毒まんじゅうを食べて
死んでしまうというのが惜しい感じがした。
今月襲名の松助はさすが松緑の弟子らしく声がよく迫力があった。
今後脇としてどうなっていくのか見ものである。
そして団十郎、二〜三分の登場で、しかも花道から出て去っていく
という、一幕見席では見にくかったが、ライトで映る彼の影は
とても堂々としていてわずかの登場ながら存在感が大きかった。
彼の影の姿は今でも眼前に蘇る。


(回顧)

まずは、歌右衛門の芸を知らないで、とんでないことを
書いてお詫びと反省したい。
澤村藤十郎の解説で放映されていた「歌舞伎その魅力」で
この「先代萩」を紹介していて、子供が活躍することと
勘三郎の八汐が憎らしかったのが印象的で、四月に「籠釣瓶」を
行ったときに五月チラシにこの演目を見つけ足を運んでみた。
当時はよくわかっていなかったが、梅幸羽左衛門団十郎
権十郎(栄御前)、七之助に襲名の松助と初舞台の松也…
後に雀右衛門鴈治郎玉三郎菊五郎という政岡を見ることに
なるが、このとき以上の配役はないのではないかと思う。
平成になってからのこの梅幸羽左衛門のコンビは昭和期の
ベストメンバーという感じである。
貴重なものを見ている気がした。
梅幸羽左衛門権十郎松助はもういないし、七之助
松也も若手で頑張っている。
「女忠臣蔵」とあるが、この後わかったことであるが、
「加賀見山」のまちがいである。