1992(平成4)7月18日

市川猿之助 七月大歌舞伎 夜の部

2階 ぬー35

通し狂言 慙紅葉汗顔見勢 伊達の十役

 

仁木弾正・赤松満祐・絹川与右衛門・

土手の道哲・足利頼兼・累・高尾太夫

政岡・荒獅子男之助・細川勝元猿之助

大江鬼貫・八汐:段四郎 榮御前:歌六

渡辺民部之助:信二郎 渡辺外記左衛門:芦燕

山名持豊弥十郎 京潟姫:笑也

山中鹿之助・松島:右近 ほか

 

 猿之助の十役の中で印象的だったのは、仁木を倒すカギを

握る与右衛門の活躍と爽やかで痛快な細川勝元だった。

与右衛門はいかにも二枚目で家を守る使命感が伝わってくる。

勝元は登場から台詞回しまで颯爽として、さすが名裁判官と

思わせる好人物ぶり。仁木は外記に迫る刃傷の場が殺気づいて

怖いほど強烈。道哲はずる賢く「今日から土手の道哲守さま

だあ~」など時々見せる仕草が面白い。政岡は千松が殺され

強い女性ぶりはいい。頼兼は柔らかみとかわいらしさがある。

累は高尾太夫の霊がのりうつった不気味さと哀れ、高尾太夫

花道七三での品格の姿、男之助は「取り逃がしたかあ~残念

だあ~」の台詞の強さ、満祐の不気味さと十役に一つ一つ

個性があって、一つ一つのシーンを通り過ぎていった役々を

すべて猿之助が演じて嘘のような雰囲気。

 道哲と与右衛門のすれ違いの早替わりは印象的。

「獨道中五十三釋」では、踊りの中で十二役早替わりを観たが、

芝居の中の早替わりは「お染の七役」以来だがスピーディで

早替わりな芝居はまた観てみたい。

 段四郎の二役は、八汐は憎らしい、鬼貫は弾正の分身に近く

高尾に迫るいやらしさ・白州でのふてぶてしさが面白い。

信二郎の民部之助は誠実さがある。芦燕の外記は老体らしく

山名や鬼貫にののしられ悔しがる表情や、仁木に斬りつけられ

反抗する姿は良かった。弥十郎の山名の善か悪かはっきりしない

政治家ぶりがいい。勝元に「虎の威を借りる狐」と言われ顔を

赤らめて怒る姿もいい。ほか笑也、右近、門之助など出てくる、

門之助の沖の井一役はもったいない。

 ストーリーでは、いつものように早替わり・宙乗りもあり、

テンポよく展開するが、政岡が中心の場はもたつき、白州は仁木

の代わりに鬼貫が出てくるので違和感もある。一方で大ネズミが

でるスペクタクルやだんまり、仁木の刃傷ぶりと見せ場が多くあり

あまり考えず、楽しく観れる芝居だった。

 大詰め、隣で亀治郎さんが立ち見していた。

 

(所感)

 猿之助が元気いっぱいの時の伊達の十役が拝見できて

よかった。

 当日券で観劇したから、二階の最後列席で仁木の宙乗りは、

あっという間に視界からちぎれてしまったことを覚えている。

早替わりというスピード・スペクタクルなど盛り込まれ、

バカバカしい歌舞伎の楽しさを改めて感じた。

 またチケット売り場で、夫婦が「宙乗りが観れないなら、

チケット取り換えてもらえ」と話す夫の姿が何か哀れと感じた。

 この頃から七月の猿之助歌舞伎も毎年楽しみとなった。

 昼の部は、右近で「蘭平物狂」、猿之助の「高野物狂」

「切られお富」、亀治郎の「子守」で。