平成3年12月4日

十二月大歌舞伎 昼の部
歌舞伎座 2階席


一.羽衣

天女…藤十郎 伯竜…橋之助


誰もが知っている羽衣伝説を舞踊にしたものであるが、
天女の心境を常磐津が、伯竜の気持ちを長唄で掛け合い
聞き惚れる。
また天女が帰るとき、宙乗りになって行くのが面白い。
舞台が細かく、天に上がってくるにつれ、浜辺から序々に
松が枝と葉になり、やがて広大な海が見えてくる装置、
伯竜がセリ下がっていくところまで見事良くできている。
藤十郎の天女が綺麗なこと!
橋之助の伯竜は白と青のストライプ着物で清楚。
祖母が、橋之助がタレントの三田寛子と結婚したお祝いを
兼ねているのではないかって言っていた。
益々磨きがかる役者の転換期ともいえる。


二.毛谷村

六助…幸四郎 お園…雀右衛門 お幸…又五郎
微塵弾正…歌六 ほか


仇討物であり、六助とお園の語り口で筋がわかる感じ。
登場人物の語りが説明的になりそうだが、そうとも感じない
不思議な芝居。
六助の人のいいキャラや、お園の男勝りから急に女性らしく
なるキャラが活きているからか。幸四郎の六助と雀右衛門
お園は見応えあるコンビだった。
お園というキャラが面白く、敵を討つために虚無僧に化け、
男勝りだったのが、許嫁の六助に会って緊張の糸がほどけたか
のように急に女らしくなり炊たきを始めるなど興味深い。
幸四郎の六助は真面目で、気が優しく力持ちのイメージがはまる。
子どもをあやしたり、お園とのやりとりなどふと見せる愛敬が
面白い。
雀右衛門のお園につきる。
最初虚無僧で登場した時、六助とのやりとりは男と偽っているが、
高下駄を履き尺八を構える姿は、顔を見せなくてもすごい風格が
ある。この風格は五月の舞鶴以来。
六助が許嫁とわかり、急に女らしくなるところは色気があって、
炊たきの様子などかわいらしい。
子どもを抱えて、短刀を片手の見得は印象的。
後半は六助を立てる芝居。
又五郎のお幸はちょっとの出ながら芝居に重みをかける。
歌六猿之助一座から離れて微塵で登場する。わずかな出ながら
奥に隠された悪事がみなぎる。子役は劇団の子でした。
これからはお園を様々な女形で見てみたい。


三.船弁慶

静御前・知盛の霊…富十郎 義経勘九郎 弁慶…彦三郎
舟長…幸四郎 舟人…染五郎、玉太郎、新車


今回のお目当て。配役が充実し大舞台である。
富十郎の前シテ静御前は、後ろを振り向きながら悲しく去って
いく姿が見ていてホント悲しくなった。後シテの知盛はとても
凄みがあって勢いに圧倒される。長唄の調子に合わせて、自分の
足がリズムをとって知盛の出はまだかとワクワクさせられた。
ラストの六法は勢いと凄みが絡み驚かされる。笛の音色に迫力
あって、富十郎の知盛と共に勢いに身を任すよう。
彦三郎の弁慶は幸四郎と役が逆ではないかと思ったがそうでも
ない。父羽左衛門にそっくりで貫禄あり知盛に立ち向かっている。
これ収穫。
弁慶が数珠をじゃらじゃらさせ、それに苦しむ知盛の姿はうまく
マッチしている。
勘九郎義経は座っているだけで美しい悲劇の武将。刀を構えて
知盛へ向かっていく姿は格好いい。
幸四郎の舟長は松羽目物の太郎冠者のような扮装で驚く。舟を
漕ぐ姿が滑稽で又重みを加える。舟人に染五郎など若手が出て
見逃せない。
緊迫感と圧倒で期待以上のものであった。この驚きというか、
感動は羽左衛門の弁慶以来又は初めての心持ちかもしれない。



四.廓文章

伊左衛門…勘九郎  夕霧…玉三郎 
喜左衛門…三津五郎 おきさ…藤十郎



年末とあって季節感あふれる芝居であった。
勘九郎の紙衣姿を見て寒気がしたくらいである。
なんと言っても勘九郎初役の伊左衛門。3月の助六の白酒売
以来の和事ぶり。ちょっと堅いながら、容姿と口調は柔らかく
懸命にこなしている。ちらっと見せる愛嬌とかわいらしさは
茶目っ気ある。すねたり、「帰りましょ〜帰りましょ〜」と
いうところは印象的。写真で見たお父様の姿にも似て、
「親父そっくり」という大向こうもかかった。それをニコッと
微笑み受けている。江戸の役者が演じるということで正直
あまり期待していなかったのだが見ものであった。
玉三郎の夕霧は病身で薄幸というイメージが強い。出てきた時
の美しさは圧巻。わあ〜きれい!という感覚で、こういう女性
だから伊左衛門の優しさがみなぎるのではないかと思う。
三津五郎藤十郎の喜左衛門夫婦は少ししか出てこないが、
三津五郎の喜左衛門の店先での引っ込みや、藤十郎のおきさの
嬉しい表情は良かった。



(回顧)

ほとんどの役者が先月に引き続き新装南座顔見世へ出演されて
いる時期でしたので、やや層が薄い一座だったかもしれない。
雀右衛門さん、富十郎さんを上置きに、幸四郎さん、玉三郎さん、
勘九郎勘三郎)さんという花形中堅が引っ張る一座であった。
この時期、橋之助さんがタレントの三田寛子さんとご結婚された。
染五郎さんもまだ若手であった。
三津五郎さんとは先代、藤十郎さんは病気療養中の澤村藤十郎
さんです。
富十郎さんの船弁慶にいたく感激したようで、拙い文ながら感激
している様子が伺える。富十郎さんの踊りっぷりに今後感化されて
いくのです。
当時勘九郎さんの伊左衛門はこの後は上演されていない。
勘三郎になっていつかは見てみたいです。
夜は、幸四郎さん親子で「二条城の清正」、勘九郎さん、玉三郎
さんで「刺青奇偶」、玉三郎さんの「鷺娘」でした。