平成2年8月22日

平成2年8月22日(水)
歌舞伎座 八月納涼花形歌舞伎(昼の部)一幕見席


一、「名月八幡祭」


新助…八十助 美代吉…児太郎 魚惣…左団次ほか


昼の部では一番インパクトが強かったもの。
このストーリーは現代に通ずるもので、新助の気持ちが
男の私にとってもつかめたのは確かである。


八十助の新助は、男のあわれさと一人の女性を一途に想う男
としての生き方・姿を切なさと不気味さが漂っていてよかった。
児太郎の美代吉は、四月の八ツ橋とは違った女性像をうまく、
小憎らしいくらい嫌な女を演じていた。この役も色気が漂い、
新助がコロッといってしまうのも当たり前のような気がする
女性であった。
そして新助の世話をする左団次の魚惣。
いつも敵役ばかりの中でこういった役柄はとてもユニークで、
人情もろい江戸の人の姿・味を出しきっていた。船頭に祭の
衣装を馬鹿にされ、「てやんでえ、べらぼうめ、うるせいやい!
塩もってこい!」という喧嘩っ早い江戸っ子の姿が印象的
だった。


二、「お染久松色読販 お染の五役」


お染・久松・お光・雷・土手のお六…藤十郎
船頭…橋之助 女猿回し…八十助


舞踊なので戸惑いも感じたが、早替りを実際に見てみると、
あれっていう間にころころとすばやく変化してしまう。
また、立役・女形とカツラから衣装まで変わってしまうわけ
だから、驚きはなおさらだった。舞踊というとあきてしまう
のだが、こういう早替りという視覚効果があると、舞踊でも
面白く感じる。


藤十郎はテレビなどでおなじみであるが、女形を主に立役も
できる役者だから不愉快を起こさなかった。また、橋之助
テレビでよく見るが、声もよく今後期待できる。八十助の
女形というのも珍しく、早替りから役者まで新鮮さを感じた。


三、「真景累が淵 豊志賀の死」


豊志賀…芝翫 新吉…勘九郎 お久…児太郎 勘蔵…左団次
ほか


落語から取ったストーリーなので結構笑えた。
勘九郎、左団次のコミカルなキャラクターと脇につく児太郎、
そしていつも清楚な役をしている芝翫が珍しい不気味な役と
役者からして三枚目の特性を持った人々ばかりだった。
勘三郎もこんなコミカルな役を好んだらしいが、勘九郎
うまく父の芸を継承していると思う。いつも勘九郎の役というと
ちょっと硬い癖の役ばかりみたいで、こういった役を見てみて
改めて好感をもてた。
左団次もいつも仇役ばかりで癖があるのだが、独特の声量と芸で
「名月八幡祭」の魚惣のような勘蔵のようなこういう役の方が
仇役より好感が持てた。
そのほか、豊志賀の芝翫がお久の児太郎に嫉妬からイビリをする
のだけど、二人は親子と知ってか妙にユニークだった。


四、「供奴」 


奴波平…勘太郎


このときは大入り満員で場内で熱気に包まれていた。
それだけ勘太郎が人気がある証であろう。
とても七才とは思えない踊りっぷりで関心してしまった。
鳴物に合わせて足で調子をとるところは、リズム感があって
見ている方もわくわくさせられた。


(回顧)

勘九郎(現勘三郎)さんが「今宵はKANKURO」という番組を
していて、歌舞伎をアピールしていたのと、8月は歌舞伎公演が
なく、この年から勘九郎さん、八十助さん、児太郎さん、橋之助
さん、歌昇さんを中心とした座組で「納涼花形歌舞伎」が始まり
空前の”歌舞伎ブーム"が始まる!勘太郎くんは、勘九郎親子
特番で一躍有名になったので、大入りはわかる。
この公演も大入り満員…一幕見席で通しという経験をした。
自分としては、ミーハーといえばそのままだが、良いタイミングで
歌舞伎にのめりこんでいった時期だったと思う。