平成2年9月14日

平成2年9月14日
十一代目市川団十郎二十五年祭 
九月大歌舞伎 昼の部
歌舞伎座 三階B席 ¥1600


一.歌舞伎十八番の内 毛抜

粂寺弾正…団十郎 玄蕃…左団次 秀太郎宗十郎 
巻絹…芝翫ほか


結構スリリングで、ギャグもあって、スカッとする芝居だった。
美男の少年や美形の腰元にふられて、客席に向かって謝る所や
ラストに去っていく所で「皆さんのおかげで、この役も相勤まり
ました。」と言っていく所といった演出は、私たちも芝居へ
引きづり込まれて面白い。キチンとしたところはかっこよく
決めていく。
宗十郎芝翫はワンカットながらもユニークに弾正をふっていく。
そして敵役にはならなくてはならない左団次の憎らしさと迫力と
豪華ながらの芝居であった。


二.ひらがな盛衰記 無間の鐘

梅が枝…雀右衛門 源太…福助 延寿…権十郎
禿…青木孝頼(芝雀長男 初舞台)


あまり上演されない珍しい芝居というので、興味を持って見た。
雀右衛門の持ち役?の梅が枝が300両をどう工面するのか、
悩んでとぼとぼと歩いていくうち、舞台が細かに遠ざかっていく
効果と梅が枝の迷いがダブり、印象的であった。
また初舞台である禿の孝頼もかわいらしく良かった。
ちょっと暗くて献身的な女性のストーリーであるので、戸惑いも
感じた。


三.伊勢音頭恋寝刃

福岡貢…団十郎 お紺…歌右衛門 万野…芝翫 お鹿…宗十郎
喜助…羽左衛門 ほか


今回はこれを見るために足を運んでしまったわけで、真剣に
なって見てしまった。
期待通り、イキをのむスリリングな展開をするストーリーで
あった。
団十郎は、逆情した貢を迫力で演じていた。
芝翫は先月の豊志賀同様、汚れ役で団十郎の貢をこっぴどく
憎らしくいじめ抜き、団十郎ともイキがぴったりであった。
お鹿の宗十郎、これを見る前、テレビで彼の右京である
「身替座禅」のハイライトを見た。愛嬌たっぷりだったのを
覚えているが、ここでも、美女のお紺をライバルに啖呵を
きるなどユニークな醜女を演じていた。
そして歌右衛門。彼を見るのも最初で最後のような気がするが、
どうしても若いキレイな女性を演じても、私の目からは
”年寄り"という足も不自由で階段を一段上るごとに
おぼつかない。
しかし、愛想尽かしを見ても、4月の八つ橋の児太郎よりも、
感情が浮き出て何か伝わってくる。さすが女形の頂点に立つ人で
ある。
羽左衛門も主役や準主役をうまく引き出し、自分は脇でジッと
かまえる。落ち着いた存在感である。彼もこのような役柄は
いつもながらうまい。何か脇にこの人がいれば安心っていう
演じている役者も見ている人もそう思ってしまう役者である。
このような豪華な面々のこの芝居もあまり見ることもない
だろう。そして座頭である団十郎自身にとって、こういった
人々に囲まれ意気込んでいるだろうと思う。



平成2年9月19日 夜の部「江戸育お祭佐七」一幕見席にて


佐七…団十郎 小糸…児太郎 三吉…八十助 倉田伴平…左団次
九介…松助 おてつ…万之丞 ほか


団十郎にしては珍しい町人役、まして江戸っ子とくれば
武士役とも似ても似つかぬものだった。相手役の児太郎も
8月の美代吉も江戸っ子だったが、小糸は甘ったれた佐七と
いう一人の男を惚れ抜くかわいい女性だった。
この二人の男女の江戸っ子のいなせさと小粋さが伝わって
くるし、なんで幸せそうな2人がこのような結果になって
しまうのか。男女の縁なんてこんなものなのかと思ってしまう
と悲しくなってしまう。私も今、江戸っ子の女性が好きで、
8月の名月八幡祭やこの芝居をダブらせて見てしまったのが
本音である。ああ、あの子もこんなところがあるなあなどと
考えながら見てしまったが、江戸っ子の気風というものに
このごろ関心しているところである。どうせなら彼女も連れて
来れば良かったかなと後悔している。
彼女のことは置いといて、またまた左団次が敵役をやっていた
色欲におぼれる嫌な侍であったが、彼じゃなければ誰がやると
思いつかないくらい変だけど彼らしい芸域である。
彼の下にいる九介の松助も彼らしい小者・チンピラをうまく
演じていた。彼は小悪党が似合うと思う。ちょっと堅いが
蝙蝠安でもやってもらいたい。
八十助はどうしてこういった三枚目がうまいのだろう。常に
主役を盛り上げる。8月の新助もちょっと堅い三枚目だった
しなあ。
そして万之丞。彼は8月は美代吉の母、今回はてつとあまり
目立たないながら存在が片隅に残るし、てつにしても、
意地悪な老婆であり、万野とかも似合いそう。
このストーリーは私が改めて「江戸っ子」というものについて
考えさせたものだった。


(回顧)
当時の文でまわりくどい。
十一代目団十郎について、まったく触れていない…(汗)
知らない、見たことがない…という感覚なんだろう。
歌右衛門さんをまた悪く書いている…どうも知ったかぶり?
している様子。
「江戸っ子」と当時好きな女性と比べてどうする?
ホント恥ずかしい文章である。
後の新之助改め海老蔵襲名時に、改めて十一代目の偉業に
関心することになるが、当時の演目を振り返ると、美形だけに
格好いいお役が似合う役者だったと思い直す。
当代団十郎さんがほかの役者に支えられ、一つ一つのお役を
勤められていたのを思い出す。
そういえば、お祭佐七の祭の場の茶番で、幼い海老蔵さんが
道行の勘平を勤めていた。
夜の部で出た当代団十郎さんと梅幸さんの「落人」が
見れなかったことが残念で仕方がなかった。