平成2年10月24日

国立劇場 2等席 12時開演
十月歌舞伎公演「通し狂言 加賀見山再岩藤」


岩藤の亡霊、鳥井又助 … 菊五郎
安田帯刀 … 羽左衛門
望月弾正 … 権十郎
二代目尾上、お柳の方 … 宗十郎
多賀大領 … 梅幸 ほか


「加賀見山旧錦絵」の後日譚。
岩藤の骨が集まって人の形へそして亡霊へという
趣向や、岩藤の亡霊の宙乗り、草履打の場での
仏像に照らされ逃げ去る岩藤の背景にある襖の効果
など視覚効果があって飽きなかった。

発端から三幕目まで息もつかせぬくらいスリリングで
テンポも良く面白く見れたが、又助切腹のシーンは、
急に世話物になってしまうので戸惑いを感じた。
雰囲気が勘平切腹に似ていて又助も勘平も展開が
じれったいし、暗いので好めなかった。


渡辺保氏は、このシーンの羽左衛門の帯刀の肚芸が
いいとあったが、よくわからなかった。
又助が殺ったのか、仕方なく又助に切腹を勧めるとか、
見ている者の解釈も異なってくるのではないか。
また、志賀市の子役が歌舞伎役者でないので声量が
浮いている。この場での松助の医者が又助妹おつゆに
惚れていて三枚目を演じて愛嬌あった。


権十郎の弾正が喜利の場で切羽詰って追い込まれる
演技がとても良く、果てるまで権十郎に目がいって
しまった。今まで見てきた権十郎は何か地味な役柄が
多く重要な脇役ながら印象薄かった。今回はこの場と
いい、序幕で帯刀と傘で肩を並べるところと貫禄あって
悪役とあって憎らしく影のある男を見事に演じのけたと
思う。


菊五郎は岩藤の亡霊はこっていて良かったが、
草履打の場では迫力がありながら憎らしさに欠ける。
又助は梅の方殺しまでは、求女の気持ちを察しての
忠義さが出ていて切羽詰った感覚で良かったが、
切腹シーンは女々しい感じ。


宗十郎はお柳の方と尾上の対照的な女性を演じていたが、
お柳の方は眉を変えての工夫があるが、立役も兼ねるせいか、
あまり色気がない。尾上も忠義さが出ているが平凡に感じる。
宗十郎の愛嬌という芸が活かされていない、愛嬌を出すような
役柄でないが、草履打の場などは少しでも出てもよかったの
ではないかな?


梅幸の多賀大領は大喜利で刀の鞘が腰になかなか入らない
NGがあったが、色にふけってダメな殿様をこの人がやると
いうのも妙に感じる。改心してお柳の方を斬り、弾正を
追い詰め、幕切れは扇を広げ高くかざす姿は決まっていた。


梅幸宗十郎の役を逆にしてやればよかったような気がする。
両者の芸やもっているものが活かされたのではないか。


自分流に指摘してしまったが、
面白く見れた芝居で役者一人一人の個性が活かされたり、
新しく見つけたり、変だなと思ったりと良く見た芝居だと
思う。


(回顧)


”良く見た芝居…”と書いているが、内容や役者を
深く読みきっていない感じを覚える。
当時朝日新聞夕刊に劇評を書かれていた渡辺保氏の
批判的な目にかなり影響されているようだ。
今の自分からは”もっと芝居見な!”って言いたい
ところである(汗) 現在もそうであるが。


”初!国立劇場”でした。
新聞評を読み、大学サボって出かけていった覚えが
あります。両親ごめんなさい。
今もそうですが、3等席1500円でリーズナブル。
当時は学割も利いたんじゃないでしょうか。
花道も見えて、”よく見える”って関心したことを
覚えています。


権十郎さんがとても良かったのを覚えています。
あの鋭い目に古怪且つ不気味な役柄でこの人の
悪役もっと見たいって思ったこと覚えています。


又助切腹は、この狂言では重要な場面。
勘平切腹も気持ち的にも時間的にダメだった自分が
ここにいます…
今はこのようなシーンは泣いてしまうこともありますが…
志賀市役はダブルキャストで、当時丑之助の
菊之助さんが出ていました。