平成3年1月24日

勧進帳」(寿初春大歌舞伎・昼の部)
歌舞伎座 一幕見席にて
弁慶…羽左衛門  富樫…吉右衛門 義経梅幸
四天王…東蔵、萬次郎、正之助、鶴蔵
後見…彦三郎ほか


 途中から入り、富樫の名乗りは見られなかったが、
場内満員で立見となってしまった。しかし、さすが
知名度高く、人気演目であるため、場内の熱いムード
が刺激的に感じた。
 羽左衛門の弁慶は珍しく、何より高齢で、最初で
最後のものと思い、食い入るように見てしまった。
松緑が当たり役で代役としてやったことがないとか。
この方の脇役ばかり見ているので主役で見るのは初めて。
姿・形は痩身のせいか、衣装がだぼついていて(特に
肩のあたり)、吉右衛門の富樫が身長があるせいか、
小さく見えてしまう。しかし、声は松緑に劣らず良く、
渡辺保氏が指摘されていたが、いる位置と空間の使い方が
うまく、逆に吉右衛門の富樫が小さく、弁慶が大きく
見えることもあった。高齢もあって力強さには欠ける
ところもあったが、延年の舞を舞うところは空間の使い方も
あって、普段見る一幕見席の役者の姿より大きく見えた。
羽左衛門一人で十八番の味、歌舞伎の醍醐味を味わった
気がする。ただ幕切れの六法がちょっとしか見えなかった
のは残念であった。
 吉右衛門の富樫は、弁慶と問答するところや、一度
通行を許し、義経を見つけ、斬りかかろうとするところ
など羽左衛門に劣らず、正々堂々対決している。勧進帳
弁慶が読むのをのぞこうとするところや、弁慶と富樫の
一触即発のところは真に迫るモノがあった。弁慶の主想いを
察し、ちらっと弁慶に顔を向けて引っ込む姿も印象的。
 梅幸義経は当たり役とあって、落ち着いて清楚である。
羽左衛門弁慶をうまく盛り立てている様子も伺える。
 羽左衛門一人大舞台で、この方の芸達者ぶりを改めて
痛感し、自分は今以上に大きいイメージを持つ役者になった。
 弁慶が小さい盃では物足りなく、大きな盃を所望する仕草を
外人の方が笑っていた、わかるのかなって思いました。


(回顧)
 初めての「勧進帳」鑑賞でした。
 それも貴重で稀な亡き羽左衛門さんの弁慶に梅幸さんの義経
もう見れない…当時は筋を追っていくのが精一杯で、役者の
当たり役までは目が届くわけもない。でも、”見た”という
体験は忘れないだろう。
 拙い文だが読んで打ち込んでいると、記憶が蘇ってくるし。
 これから様々な方の弁慶や富樫に義経を見ていくが、同じ
勧進帳ながら見方も気持ちも変わるから不思議な演目である。
 ちなみに見に行った日は21の誕生日だったよ(笑)若いなあ。