平成3年2月15日(金)

尾上菊五郎劇団 二月大歌舞伎 夜の部
中村雀右衛門 市川団十郎 坂東玉三郎参加
通し狂言仮名手本忠臣蔵
歌舞伎座 3階B席

五段目  山崎街道鉄砲渡しの場 二つ玉の場
六段目  与市兵衛内勘平腹切の場
七段目  祗園一力茶屋の場
十一段目 高家表門討入りの場 大広間の場
     奥庭泉水の場 炭部屋本懐の場

大星由良之助…羽左衛門  早野勘平…菊五郎
お軽 … 玉三郎     寺岡平右衛門…団十郎ほか


五〜六段目

 菊五郎で「加賀見山再岩藤」の又助切腹を見たが、
そのときは雰囲気暗く、じれったさがあって、終いには
眠気も出てきて飽きてしまった、今回も結果的には
そうなってしまったが。
 でも、勘平が追い詰められたり、頼れるお軽が去り、
どうしようない男の悲しさが伝わり又、伝える菊五郎
姿が活きていて目頭が熱くなってきた。
「色のふけったばっかりにぃ」という台詞が体から
にじみでる。
 玉三郎のお軽は抑えた感じで、勘平を引き立てる。
 菊蔵のおかやは勘平への問い詰めに迫力ある。
 松助の源六はいつもながら一癖ある役が似合う。
 田之助のお才は茶屋の女将という感じでつんとして
気が強いながら、人当たりよさがにじみ出ている。
 三津五郎の不破は抑えたもの、「勘平早まりし死…」
という台詞が印象的。
 彦三郎の千崎は仕所が少ないものの、「この不忠者」
とののしるところはこの人らしい。
 左団次の定九郎は大柄だが、「五十両」の台詞や
猪か人気に気がつき逃げ隠れる表情がいい。
 気になったのは、菊五郎勘平が、彦三郎千崎に
居所を教える所で、彦三郎千崎がもどかしかったのか、
菊五郎勘平の「早くしねえか」みたいな目つきがイヤだった。
 猪が滑稽。


七段目

 団十郎の平右衛門がいい。
 初役ながら台詞も良く、愛嬌もあり笑わせてくれる一面も
あって印象深い。ビデオで羽左衛門吉右衛門のを見たが、
羽左衛門のは兄貴っぽく、吉右衛門のは豪快、今回の団十郎
爽快である。お軽とのやりとりで、由良之助のハラを読み、
斬ろうとして逃げたお軽を呼ぶところでの「早くきやがれえ」や
刀を投げるところ、勘平の一部始終を語るところはこの人らしい
持ち味がでている。
 玉三郎のお軽は平右衛門とのやりとりに、妹らしいかわいらしさ
がある。
 羽左衛門の由良之助は胸の内を出す・それを隠す・さりげない
色気と様々な一面がはっきりしていて丁寧に見せる。説得力あり、
貫禄もあってこの人らしい由良之助。「くちかるじゃな」という
台詞、床下の九太夫を確認する驚きの表情、刀を三味線にして弾く
姿は愛嬌あって印象的。
 由良之助が密書を読む場面を初めて見たが、お軽に九太夫
盗み見る構図は絵に描いたように面白くよくできていると関心。
 平右衛門の出が浪士三人にくっついてくるものと、浪士三人が
醜態する由良之助を斬ろうとして、止めにでてくるものとあるのに
気がついた。今回の団十郎は後者であった。こちらの方が
”待ってました〜”って感じでいいかも。


十一段目

 浅葱幕が落ち、火事装束に身を固めた浪士の姿が格好良く、
浪士一同の姿を見たとき「おお!」ってうなってしまった。
 羽左衛門の由良之助は堂々としていて輝いていた。年を
感じさせない。
 立ち回りは、左近の力弥と男寅の師泰が若さみなぎる、
男寅の見得や目つきは父左団次にそっくり。
 初舞台銀之助の小坊主もぽちゃりしていてかわいらしい。
 団蔵の平八郎と正之助の竹森の立ち回りはおおらかで
面白く迫力もある。
 幕切れの勝どきは声高らかで、大事は報われたと印象付ける。


(私観)

 昼の部は一度見たことがあったから、夜の部を見たのだろう。
 歌舞伎の忠臣蔵の全容が一通り見てみて感じることも多かった
ようです。
 各役者さんのこの役が見たいってこの頃思うことも。

 また、初めて知る「菊五郎劇団」の存在…
 今は何やるのかなって楽しみにすることもあるが、歌舞伎は
役者個人って思っていた時期だったから、劇団に参加…って
何?って思ったこともありました。
 このころは梅幸さん、羽左衛門さん、先代権十郎さん、
先代三津五郎さん、田之助さんらと主役も脇も揃っていたかも
しれない。要所にこのような役者さんたちが出て盛り上げていた
時期だったかもしれない。

 おかやを演じた菊蔵さんもいない。この頃から足も悪く、
ちゃんと正座していなかったことが気になったのを覚えている。

 何といっても団十郎さんの平右衛門…初役時のは忘れられない。


注)左近=松緑 男寅=男女蔵 正之助=権十郎
  初舞台だった銀之助は今は出ていない。