平成3年2月21日(木)

yukio-n2007-01-02

尾上菊五郎劇団 二月大歌舞伎 
中村雀右衛門 市川団十郎 坂東玉三郎参加
昼の部 
歌舞伎座 3階席にて


通し狂言仮名手本忠臣蔵
大 序 鶴ヶ岡社頭兜改めの場
三段目 足利館門前進物の場 
    同 松の間刃傷の場
四段目 扇ヶ谷塩冶判官切腹の場
    同 表門城明渡しの場
道行旅路の花聟


塩冶判官…梅幸  高師直羽左衛門
大星由良之助…団十郎 
顔世御前・お軽(道行)…雀右衛門
桃井若狭之助・早野勘平(道行)…菊五郎 ほか


大序

 遅れて、最初の人形から人へと息を吹き込む演出は
見られなかった。
 羽左衛門の師直は、顔世を見て、黒い着物の裾を
前屈みにして下半身を隠すところや、顔世を口説く
ところなど見ると、硬派のイメージが先行する役者
ながら色気を魅せる。仕草の形の見栄えや若狭に
向かって吐く「おみゃあ、なんだあ〜」という台詞
など印象的。
 菊五郎の若狭之助は、師直と対抗するところなど
さがみなぎる。
 梅幸の判官は抑えた雰囲気。雀右衛門の顔世も
抑えた感じ。道行お軽の方が似合うかも。
 各役者、序幕とあって本領発揮はこれからと
思わせられた。


三段目

 眼目は梅幸の判官。
 三階から見ると、羽左衛門の師直が梅幸の判官より
ちょっと一歩前に座り、やや後ろにいる梅幸の判官の
位置と空間の持ち方が、師直が権力者であるという
大きさと、師直にいびられる判官の悔しさ、心のうち
から出てくる態度が位置により感じられる。
梅幸の判官の悔しい表情が遠かったのが残念だったが、
身体全体から感じる師直を斬るという意思は、
緊迫感あって一見の価値があった。
 羽左衛門の師直は、「慈悲ぶか〜い」や「こんな
ひろ〜い」という台詞に、鮒の講釈に説得力あり、
淡々として面白い。憎まれ口は強く、自然に判官を
追い詰めていく言い回しは緩くと台詞まわしが巧み。
ビデオ見た勘三郎のは艶があり、団十郎のは豪快、
羽左衛門のは頑固であった。梅幸との息はぴったり。
勘三郎の愛嬌ある師直のイメージが先行し、羽左衛門
のは堅く愛嬌がほしかったかも。(この手堅さがいい)
 菊五郎の若狭之助はここでも若々しく、一本気で
師直を斬るという心情が全身より感じられる。師直吐く
「バカほど怖いものはない」という台詞が素直に出る
若狭之助。


四段目

 梅幸の判官は、切腹しなければならないが、由良之助に
一言言いたいという気持ちがよく出ている。
「力弥、由良之助はまだか」や「ちこう〜ちこう〜」、
「九寸五分は形見じゃぞ」という台詞は待ちわびる姿と
無念さがにじみ出る。
 団十郎の由良之助は、「九寸五分」の台詞を受ける
ハラ芸がいい。その後の城明渡しのあたりは台詞が
聞きづらかった。城から離れるときの九寸五分の刀に
ついた血をなめるところや引っ込みが印象的。
ビデオで見た仁左衛門や孝夫のは紫のフクサに刀を包み、
包んだ形で刀を眺める見た目の良さがある。今回のは
フクサでなく、半紙に刀を包んでいたものでリアルである。
 雀右衛門の顔世は、悲しさがあってよかった。
 気になったのは、由良之助と家臣たちは裸足、原(菊蔵)
だけ足袋を履いている…なぜか。
 市蔵の九太夫ほか。


道行

 雀右衛門のお軽が生娘ぽく、踊りに説得力あって、死を
覚悟する勘平を止めるところが良かった。
 菊五郎の勘平は姿が良く色男で、お軽と並んだ姿もきれい。
お軽を守る姿は色にふけったという後の台詞が活きる感じ。
 八十助の伴内に関心。踊り巧者とあって柔らかく、愛嬌が
にじみでている。登場の際の清元の節で台詞を言うところは
笑わせくれた。当たり芸か…細部まで行き届く愛嬌でサービス
精神旺盛だ。道行の後半はこの人一人で華やかに盛り上がる。


(回顧)

 3泊4日でスキーに出かけて帰って来た翌日に見に行く。
思い立ったが吉日で体痛い、疲れ溜まっている中、足を運ぶ。
 新聞評を読んで、梅幸さんの当たり役判官見たさであった。
体を押して行ったかいがあった。最後の判官だったから。
師直は羽左衛門とのコンビだし…今思うと貴重である。
 夜の部のときも書いたが、菊五郎劇団が脇に揃い、細部まで
役が行き届いている雰囲気だったと思う。
 昼は梅幸さん、羽左衛門さんのほか、八十助さんの伴内が
インパクトが強かった。確か最後の幕を引く姿の舞台写真を
買ってしまったと思う。
 忠臣蔵の通しは一通り見てまずは満足…。
あわせて九段目や天野屋利兵衛、二段目など見てみたいと
思ったことも…前述したが、違う役者で各々の役が見たいと
思った時期でもあった。
 一度見たからかもしれないが、「もうやるの?」という
歌舞伎興行サークルを感じることもあった。