平成3年7月29日

第3回 宗十郎古典復活の会
一.女大盃  二.花乃宿
国立大劇場 3階席にて


一.女大盃
お初…宗十郎 お千代の方…田之助 内蔵之進…左団次
松平左近将監…東蔵 熊五郎…芦燕 ほか


(あらすじ)
 酒乱のため禁酒をしているお初は、大名奉公している腹違いの姉の
お千代の呼びかけで屋敷に行く。実はお千代は内蔵之進とお家横領を
たくらみ自分が産んだ子を殿の子と偽っていた。
 町内で評判のいいお初が疎ましいお千代は、殿の前で酒乱にし恥を
かかせてやろうとするが、逆に噂であった不義のことをお初に暴露
されてしまう。


 女性が酔って酒乱を起こし啖呵を切るという所が惹かれて、どんな
酔い方をするのか、楽しみながら見た。酔って酒乱を起こすというと、
魚屋宗五郎を思い浮かべるイメージがあるが、宗十郎のお初は、あまり
酔う過程つまり大盃で飲む所が大袈裟でなく、本当に酔っているのかと
かえって不安になった。
宗五郎は男だから、女とは飲み方が違うのかも、やや期待はずれだった。
実際に女性が大杯を食らって酒乱を起こしからまれたことがあるから、
芝居以上の経験をしたからそう思ってしまったのかもしれない。酔って
いく中で小言や人に絡む宗十郎お初の姿は、とても面白く若干はダブって
いるかも。
 宗十郎のお初は無邪気にかわいらしい、無理な部分もあるが、啖呵を
切るほどの強い女性に変わり宗十郎らしさがうまく出ている。
益々好きな役者になっていく。
 酔っていく過程の下座が勧進帳とのこと…うまくはまり空間ができて
いる。


 田之助のお千代の方は、敵役で意地悪な姉がはまっている。お初に
今日は無礼講といいつつ、助けずすましたりする姿は印象的。病後の
左団次は痩せたが、相変わらず憎々しい。ラストは自刃するが、その
場面は緊迫感ある。この二人の追いつめられる姿は負け犬の遠吠えぽく
面白い。
 東蔵の殿様はきりっとしていい。ヤリを持つ姿は格好いい。色気が
欲しい。
 芦燕のお初の父が意外で、近所にいるような頑固で情のあるお父さん
ぶり。幸右衛門の母は嫌みっぽく、こんなおばさんも近所にいる感じ。


 この芝居、ほかに誰がやるかと考えるが、あてはまる役者がいない。
宗十郎の再演を望む。




二.花乃宿
大名…宗十郎 奥方…左団次 太郎…田之助 花乃…東蔵


(あらすじ)
恐妻家の大名が、奥方の目を盗み浮気に出かける。その相手花乃は、
実は大名召使いの太郎の恋人。
困った太郎は奥方に告げ口し、妬いた奥方は太郎と花乃の所へ先回りし
大名を懲らしめる。


「身替座禅」と同じ狂言「花子」からとったもので、宗十郎の大名と
左団次の奥方は一度見たかったので、まさかこんなに早く見れるとは
思っていなかったから感無量。
 身替座禅と違い、奥方が恋人宅へ先回りし大名を懲らしめる展開で
おかしい。踊りがわからなくても楽しく見れた。


 宗十郎の大名は、姿に衣装が綺麗で又、見たからに恐妻家を思わせる。
「花乃のもとへ…」とニコッとした表情で出かけていく姿がイキイキ
している。花乃と思いつつ(実は奥方)手を出すところは浮気そのもの。
その手をつねられて「痛っ」の表情など細かい表情がいい。期待通り。


 左団次の奥方は、嫉妬するところで大阪名物パチパチパンチをしたり、
全身で悔しさを表すところや、掴み倒してやるとの思いで花道へ引っ込む
ところなど豪快ですざまじく、このような女性にひっかかったら、見て
いても想像してもこわい。


 月明かりで大名が奥方とわかりビックリする表情や、隣で太郎と花乃が
いちゃついている中で、大名も奥方をとりつくろうとするところなど
二人の姿が良かった。

 
 田之助の太郎は、女形を見ているせいか見慣れないが、困っている様子
や、大名の様子を影で見ているところなど、愛嬌と茶目っ気あって楽しい。
東蔵の花乃は、あまり目立たないが、暗闇の踊りや太郎といちゃつくところ
は印象的。


 4人で暗闇の中でのだんまり風な踊りは結構楽しく笑わせる。
 勘九郎の大名、橋之助の太郎、児太郎の花乃、奥方はもちろん左団次で
見てみたい。
 終演時、宗十郎より挨拶あって「体が元気である限りやっていきたい」
とのこと。また来年も足を運びたい。



(回顧)

 これも就業活動の合間をぬって行ったと思う。
 この会、気になっていて、やっと足を運ぶことができたって思いだった
し、役者の自主公演というのも初めての体感だった。
 宗十郎の会は、体調壊すまでこれから4〜5年続けられたと思う。
ほとんど復活公演か新作で、毎年時期になると、今年はなにやるのかな
ってDMが来るのを楽しみにしていました。同じ演目の繰り返しが目につき、
この方の会は非常に新鮮でした。
 このときは「花乃宿」が秀逸。当時評論家の渡辺保先生は「フィガロ
結婚みたい」って評されていました。宗十郎、左団次という絶妙なコンビに
花乃が実は太郎の恋人という着想が面白い。
 これ以降は「女大盃」とともに誰も手がけていない。
 「花乃宿」は勘三郎さん、三津五郎さんでやってほしいし、「女大盃」は、
この当時は宗十郎さん本人しか望めない感じであったが、今なら、福助さんや
秀太郎さん、大穴!萬次郎さんでやれそうな気がします。誰かやって下さい!