平成3年8月28日

八月納涼花形歌舞伎 夜の部
歌舞伎座 一幕見席


一.番長皿屋敷
青山播磨…八十助 お菊…(澤村)藤十郎 
後家真弓…東蔵  放駒…歌昇 ほか


 八十助の播磨は、戦のない太平の世の中で何をすれば
いいのかという焦りやそのような怒りを放駒ら長兵衛側へ
向けたりといった若者の焦りをうまく出す。内から外で
出る播磨の心境が演じる八十助の全身からヒシヒシと
出ている。
 藤十郎のお菊は、お皿を故意に割る下りはやや退屈
したが、播磨の怒りから「一枚、二枚…」と数えていく
ところの辛さ・悲しさが伝わってくる。
 この二人で満足した舞台でした。大向こうから
「名舞台!」とかかり、爽やかであった。祖母が勘九郎
児太郎でやってほしいと言っていたが、この二人も悪く
ない。
 十蔵の奴は、お菊を斬ろうとする播磨を止める姿など
好助演。東蔵のオバサマは存在が重くはまっている。
歌昇の放駒は体格や姿見はいいがどこか軽く見える。
 八十助の播磨ばかり良すぎて目立ちます。


二.実盛物語
実盛…勘九郎 瀬尾…左団次 太郎吉…七之助 
小万…児太郎 ほか


 展開が複雑且つ、ストーリーの把握に戸惑った演目で
花形歌舞伎としてかなり重いものと感じた。
 勘九郎の実盛は、この人らしくない役また珍しい役と
矛盾するような感覚で見たが、形、台詞回しと良く、
要所ごとにキリッとして格好がいい。それと表情も良く
特に太郎吉に微笑むところは良かった。
 七之助の太郎吉がかわいらしく、勘九郎を助けている。
いたずらっぽさ・無邪気さがあって良かった。
 左団次の瀬尾は存在が重い。「生まれるまで待てない
から腹を割け」と言い寄るところや、太郎吉にわざと
討たれるところは迫力がある。
 児太郎の小万はやや存在うすい。
 勘九郎の一人芝居が目立つが、七之助や左団次の好助演
があって引き締まる。勘九郎らしくない感じもするが、
逆に新しい勘九郎も見た感じがする。益々どんなお役を
するのか楽しみになってきた。


三.闇梅百物語
白梅…(澤村)藤十郎  骸骨・読売…勘九郎
傘 … 八十助     狸    …歌昇
河童… 橋之助     雪女郎  …児太郎
小骸骨・読売…勘太郎  禿    …七之助 ほか


夏向きのおかしい舞踊であった又、適役適所で役者が
役にはまっている。八十助の傘、歌昇の狸、橋之助
河童は特に言える。
 児太郎の雪女郎にはうっとりとする。
 勘九郎勘太郎の暗闇の中での骸骨の踊りはコミカル
でおかしい。
 ラストの児太郎のお姫様、橋之助の若殿の2人は
美男美女でキリッとして印象深く、勘九郎親子の読売も
親子さながらかわいらしく見えた。狐になってからの
立ち回りは、勘太郎が小さいながら一生懸命な姿が目を
運ぶ。
 一座総出の舞踊。時代物二つの後で小気味良く軽快で
あきない。


(回顧)


 2回目の納涼歌舞伎。歌舞伎座内の工事があったせいか、
興行期間が10日間ばかり…就職活動もあって前売りは
取っていなかった…内定も何とか戴き、やっと足を運んだ
のが楽日…そりゃ勘九郎さんでしたから人気で定席は取れず、
一幕見席の通しとなった。
 八十助(現三津五郎)さんの播磨がスゴイ評判が良かった
ので、あえて夜の部へ行った。八十助さんの演技に感激した
のはこれが初めてだったかもしれない。
 勘九郎さんの実盛も世話物の役者のイメージが強かった
役者さんだけにビックリしたし、羽左衛門さんの指導とあって
わけもわからず見に行った覚えがある。
 勘太郎さんも七之助さんも子役でした。その様子は当時
アサヒグラフで連載していた「勘九郎かわらばなし」で
見ることができる。
 昼は、児太郎(現福助)さんの「いもり酒」、歌昇さんの
「太刀盗人」、勘九郎さんらの「怪談蚊喰鳥」、勘太郎さん
の「越後獅子」。