平成3年9月25日

九月大歌舞伎 夜の部 
歌舞伎座 一幕見席


一.傾城反魂香
又平…吉右衛門 おとく…雀右衛門
雅楽之助…福助 修理之助…友右衛門 将監…左団次 ほか


 又平のどもった話し方とはどんなものかとそれが楽しみで見る。
実際見てみると、楽しみというより思ったことがうまく言えない
悲しさ・辛さがヒシヒシと伝わってきて、切ない気分になった。
障害を持っている人間こそ何事にも懸命で才能あふれた人間が
多いのではないかと思った演目でした。又平夫婦が「土佐」の
名字を許されたときに喜ぶ姿や、又平が全身から出す喜ぶ表情は
見ていてウキウキしてたまらないものでした。
 男前で格好いい吉右衛門のイメージが強いが、又平は4月の
法界坊以来の愛嬌と表情で良かった。名字を許されず言い寄る
ところは切なく、「かかぁ、透き通ってる!」という台詞からの
喜びはウキウキさせてくれた。
 雀右衛門のおとくはしっかり女房で、しゃべりはとてもおかしく
見せる。吉右衛門の又平とイキあって、愛嬌たっぷりでした。
手水鉢に描いた自画像が透き通ったのを見つけて、又平に指で
知らせる姿が印象的。
 友右衛門の修理之助は台詞回しから姿・形が良く、キリッとして
良かった。
 吉右衛門自身、趣味でスケッチをされる方なので、そのような
面から見ても気持ちが役に通じるものがあったはず、また見てみたい。


二.上・島の千歳  島の千歳…玉三郎


 思わず、玉三郎の姿にうっとり。烏帽子姿や、その後の赤の着物姿は、
色気があって「綺麗だなあ」ってぼそっと呟いてしまった。20分ながら、
玉三郎の魅力を感じた舞踊でした。    

 
下・傀儡師(八代目坂東三津五郎十七回忌追善狂言
傀儡師…三津五郎  清元…志寿太夫
唐 子…八十助、守田光寿ほか三津五郎の孫たち


 三津五郎が6人の孫と踊ると聞き、これは今月のお目当てであった。
 一幕見席ながら、耳をすますと清元がよくわかり、それに合わせる踊りも
身ぶり手ぶりで何となくわかった。3人兄弟の行や棒を持って知盛の行を
踊るところは愛嬌と滑稽味を伝わってきた。三津五郎の踊りの力を感じずに
いられない。
 三津五郎の踊りは見てみたかったので叶って良かった。普段は表情硬く、
地味なので、この方を見るなら踊りと改めて思った。息子の八十助の踊りも
良いが、三津五郎の踊りには説得力があって、あまり騒がしくない。今度は
喜撰が見たい。
 それから6人の孫と踊ったということ。楽日とあって、八十助も出演し
大舞台になった。何といっても三津五郎に抱かれる末孫の光寿ちゃんが
あどけなくかわいらしい。感無量の三津五郎の表情も印象的だった。


三.極付 幡随長兵衛
長兵衛…吉右衛門 お時…玉三郎 水野…福助 唐犬…三津五郎
公平…団蔵 登之助…東蔵 長兵衛子分…歌昇、友右衛門、秀調ほか


 以前、幸四郎の長兵衛、菊五郎の水野、芝翫のお時でビデオで見ている。
公平が左団次でお茶目で強い印象が残っている。
 今回新鮮さは感じられなかったが、河竹黙阿弥のストーリー性やテンポに
展開と改めて関心。息もつかせず飽きさせない運びでそこが魅力かと思った。
来年は没後100年で特集が組まれるそうなので楽しみである。
 吉右衛門は又平もさることながら、長兵衛もはまっている。風格から凄味と
子分への指導力が見られ、時々見せるやさしさと男気ある。
 福助の水野はカンクセあってキリッとして吉右衛門と相対する。
 玉三郎が女房役、鉄火肌の女ぶり、夏祭のお辰に似ている。死にゆく夫への
悲しみをグッと抑えるところは良かった。
 三津五郎の唐犬は渋みあり、団蔵の公平はもっと愛嬌が欲しい、歌昇の出尻は
この人らしい三枚目ぶり、友右衛門の極楽は修理之助同様台詞と姿がいい。
 権一の慢容上人、菊十郎の舞台番、幸太郎の保昌、仲蔵の坂田と印象深い。
 長松は劇団の子でなくて、役者の子にやってほしかった。


(回顧)

 吉右衛門の活躍と三津五郎の踊りが印象に残る公演でした。
 光寿さんは今の巳之助くん。このときは1〜2歳でなかったかな…。
普段は出演予定なかった八十助さんが唐子姿で出演されて華やか。
八代目三津五郎はふぐの毒で亡くなったというグルメな方…死に方が
死に方だけにあまり良い印象を受けていなかったが、後々著書を読んだり
上方歌舞伎の第一人者で偉業に感激した覚えがあります。
 記録によると、昼は「十五夜物語」「道行浮塒ドリ」「玉藻前曦袂」
「かさね」でした。
 ここにある福助は今の梅玉さん、八十助は現三津五郎、ここにある三津五郎
先代です。