平成3年10月2日

歌舞伎座
藝術祭十月大歌舞伎 昼の部 2階席


一、菅原伝授手習鑑「寺子屋
松王丸…団十郎  武部源蔵…吉右衛門 
千代…宗十郎   戸浪…時蔵 ほか

 困って帰ってくる源蔵〜身替わりを立てる〜松王丸の首実検〜
身替わりの子の母の迎え〜身替わりの子は松王丸の子と次々に
やってくる緊迫感と意外な展開でかなり面白く見れた。また悲劇に
つづく悲劇でかなり悲しくなってしまう芝居でもあった。
 松王丸が首を見定めるときの何かこみ上げる緊迫感は場内一面に
漂っていたし、源蔵夫婦のその後の展開に腰が立たないところまで
じっくり引きづりこまれてしまった。そして、千代の登場と源蔵の
焦りもどうなるのかと次の展開が読めないので巧みな芝居づくりと
驚いた。
 役者も揃っている。団十郎の松王丸は姿が良く、豪快又哀愁を
漂わせ、「無礼者めぇ」、「持つべきものは子でござる」、
「でかした源蔵〜よくやった〜」という台詞も良かった。2月の
平右衛門以来この人らしいはまった役であった。
 それに対する吉右衛門の源蔵も見ている私たちに次々と緊迫感を
与え、戸浪との夫婦愛といった時折見せる優しさとこれも良かった。
 時蔵の戸浪は丁寧で上品であり奮闘している。
 宗十郎の千代は女々しく感じるが、迎えに来たときの源蔵との
やりとりが姿と緊張感を与え良く、失った子への愛情の強さも
良かった。
 団蔵の玄蕃は首を持ち去る姿は良かったが、凄味や子どもを見る
ときに愛嬌が欲しいかも。
 中堅花形が頑張った大舞台であったと思う。


二、春昔由縁英
虚生、羽根の禿、白酒売、女伊達、相生獅子…雀右衛門

 途中コクリといってしまったが、何となく得した気持ちになった
舞踊であった。羽根の禿、白酒売、女伊達、相生獅子と普段一つの
舞踊が一気に見られたようで楽しかった。
 中でも、女伊達と相生獅子が印象深い。女伊達は「助六」の出と
同じだが、雀右衛門の姿がとても良く、格好いいとさえ思った。
女形がこのような男っぽいものをするとおかしさも感じるが、粋で
かなりはまっていました。相生獅子は毛振りもあって勇壮に見え、
立回りもあって面白い趣向だ。
 新聞評にもあったが、羽根の禿がかわいらしく、生娘が合う
雀右衛門にとってはぴったりであった。一度引っ込んで再度のれん
ごしに挨拶をするところはホントかわいらしい。
 もう一度見てみたい舞踊である。


三.天衣粉上野初花 河内山
河内山…吉右衛門 松江候…団十郎 高木…彦三郎
宮崎…歌昇    浪路 …芝雀  大膳…家橘ほか

 先月の「幡随院長兵衛」に引き続き、同じ黙阿弥作の「河内山」
でスピーディーな展開で出てくる人物一人ひとり一癖あって活き活き
している。ストーリーもヒーローものに近く、演じる役者によって、
面白い芝居になるだろう。
 今回はかなり厚い芝居であった。吉右衛門の河内山に、気の毒に
感じたが団十郎の松江候と相対する人物の配役がすごい。豪快で
軽妙な吉右衛門の河内山に対し、ぐっとこらえ、悔しい顔に短気で
あるが堂々している団十郎の松江候で絶妙なコンビネーションと
息がぴったりだった。イヤホンガイドの小山さんも、どうなるかと
思ったが、大名らしくてよいと褒めていた。最初、配役が?と
思ったが、団十郎さんが演じることによって、盛り上がったと思う。
 彦三郎の高木は実直で善人らしくこの人らしい。
 歌昇の宮崎は袴の形がおかしかったが、好青年ぶり。
 芝雀の浪路は見ているだけで哀れで同情してしまう感じだから
救いたくなるのだろう。
 家橘の大膳は河内山の啖呵で当惑した表情が面白い、もっと
アク強さや憎らしさが欲しい。
 「寺子屋」同様、役者は充実してワクワク楽しく見られました。


 芸術祭とあって、演目が充実している。見てみたい演目も偶然揃い、
団十郎吉右衛門雀右衛門の活躍が面白い。舞台が大きく見えた。
 夜の部の猿之助宙乗りが、10月20日で3000回を迎えた。


(回顧)

 この月から「都民劇場」へ入会した。2ヶ月に一度歌舞伎鑑賞が
できるシステムである。現在に至るまで会員とさせて頂いているが、
今後は席で隣席の客に泣かされることも記述で出てくるだろう。
 御園座顔見世がある月のためか、雀右衛門さん、団十郎さん、
吉右衛門さんという三本柱の公演で、特に団・吉競演が懐かしい。
雀右衛門さんの早替りなんてそうなかなか見られないし…
 夜の猿之助さんの演目「菊宴月白浪」は、斧定九郎が実は忠臣
だったという忠臣蔵のパロディ。凧に乗っての宙乗りで一度見て
みたい芝居だ。これ以来演じられていないと思う。