平成4(1992)年1月6日

平成4年(1992)年1月6日(月)
歌舞伎座 一幕見席


壽 初春大歌舞伎
京鹿子娘道成寺 道行より鐘入りまで
宇野信夫追悼 鴛鴦の賦 ぢいさんばあさん


京鹿子娘道成寺
白拍子花子:菊五郎
所化:丑之助、鶴蔵、正之助、由次郎、獅童ほか


 途中から見たので、聞いたか坊主の登場と舞の話そして
道行は残念ながら見られなかった。ちょうど烏帽子を
かぶった花子の舞の始まりから見ることができたので
タイミングは良かった。
 先月鴈治郎の花子を見たばかりで上方の道成寺を見た
気がしたが、今月は江戸の道成寺を見る。振付は同じ
なのでどこか上方でどこか江戸なのかはわからない。
雰囲気や気品の差であろうか。
 鴈治郎の花子はふっくらした日本古来の美人像で
道行の出はきらびやかな姿は忘れられない。今回の
菊五郎の花子は鋭い眼のため、鐘への視線がこわく、
凄みがある。安珍への恨みや怨念がひどく痛く感じる。
そのような凄みの一方でくどきや恋する娘の姿を踊る
ところは可憐でかわいらしい。すごみと華麗と矛盾する
ような姿に心打たれた。
 所化は丑之助のけなげな姿が印象的。父菊五郎への
視線が熱い。時期には彼の花子も見られるだろう。
鶴蔵は気の毒。浅草の「入谷」のそばやとかけ持ちで
大変だが、若手の中での老けは変に感じた。
 二度目の拝見ながら“また見たい”という気がして
ならない。芝居も役者次第と思う舞踊。4月には児太郎
改め福助が踊る。今後も様々な女形で見ていきたい。


宇野信夫追悼 鴛鴦の賦 ぢいさんばあさん
伊織:幸四郎 るん:芝翫
下島:団蔵 久右衛門:歌六
久弥:信二郎 きく:児太郎 ほか


 今興行のお目当て。野郎一人で見て“ああ隣に彼女でも
いればなあ”なんて思わせるような幸せいっぱいの芝居。
 伊織は悪友下島から借金したことが原因で誤って下島を
斬ってしまうのだが、こんな夫を妻は普通許さないだろう
に温かい心の広い妻の愛情の深さに感動した。妻るんの姿
がおちゃめでかわいらしく、伊織も幸せに見えてしまう。
だから、やきもちして帰る久右衛門の気持ちもわかる。
再会の時は、家を預かっていた久弥夫婦も伊織夫婦の若い
ころにそっくりで対比して描かれている。今のサラリー
マンの様子をうかがわせるような伊織と下島のつきあいなど
よくできた芝居である。追悼の宇野信夫を演出が憎い。
 幸四郎の伊織は先月の六助のような愛嬌があって、武士と
いうしっかりしたところと友人関係の悲哀さも出てよかった。
初役だったそうで大した役ぶりでした。
 芝翫のるんはお茶目でかわいらしく見える。いつも芯の
しっかりした役柄を見ている中、るんはよかった。
 団蔵の下島はしつこいところが日常でもこういう人いると
思わせる。役にはまる。憎らしさだけでなく愛嬌もほしいし
嫌われてもいても少しはいいところも見せてほしいなあ。
 歌六の久右衛門は伊織夫婦へのやきもちが面白かった。
信二郎と児太郎の久弥夫婦はまさに幸せな夫婦と思えた。
児太郎のきくは綺麗だった。
 自分の近くに両親と同じぐらいの夫婦が観劇していて、
お幸せそうだった。芝居もよく見ていて、男性は「伊織の
気持ちもわかるような気がする」とつぶやいていた。
 後日、友人に話すとタイトルでふきだしていたが、展開を
話すと真顔になっていた。
 正月早々、幸せいっぱいな芝居を見て、今年もいいことが
あればいいなあと思った。


昼の部
舌出し三番叟(三津五郎田之助
石切梶原(吉右衛門、児太郎、三津五郎権十郎歌昇
鈴が森(羽左衛門梅幸
四の切(猿之助ほか)…上演千回記念


夜の部
将軍頼家(歌右衛門福助吉右衛門、松江)
京鹿子娘道成寺
ぢいさんばあさん


メモ)


菊五郎道成寺は華麗!幸四郎芝翫も春らしい芝居だった。
昼の部の梅幸権八羽左衛門の長兵衛も見ものかも。
1月19日、両親に二千円の席ながら昼の部へ行っていただく。
1月18日、猿之助の四の切は1000回上演を迎えた。


(所感)


 駒込田端に住む祖母の家に新年挨拶に行き、その帰りに
歌舞伎座に寄ったのだと思う。“見に行こう”という
バイタリティーの現れ、若かったということだ。
 昼の部の故梅幸、故羽左衛門の鈴が森は見たかった。
また夜一番の故歌右衛門の政子も迫力あったはず。
 今後も菊五郎さんの道成寺は何度か見ている。丑之助…
今の菊之助さんのは単独での道成寺は20年後の平成22年11月に
初めて見ることになる。ぢいさんばあさんも様々な役者コンビ
で見ていく。
 あれだけ何度も見ていて、このとき千回上演を迎えた
猿之助さんの狐忠信も今は懐かしい。
 いい年になれば…と願っているが、この年は就職の年で
社会人1年生でいろいろと壁にぶつかる年だったと思うが、
様々な人との出会いや旧友に支えられた年でもあったと思う。